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周回プレイを促すための工夫1

 Xのオフライン版がver.2までリリースされていますね。私はどうにも手が出ません。オンライン版がおもしろくて、他のゲームを必要としていないというのもありますが、なんかこう、Xをもう一度始めからやるのは別にいいかなという気持ちがあるのが一番大きいと思います。


 私は歴代ナンバリング作品をすべて遊んでいて、XとⅪを除けばすべて3周以上やっています。1回クリアしたら十分という人も多いでしょうが、同じ作品を何周も遊ぶ人も一定数いるはずです。そして、歴代ナンバリング作品の多くは、1度クリアしてもまた遊ぼうという気にさせるための工夫を用意しています。

 1つは、話の進行の順序を変えられるようにすることです。例えば、Ⅰのストーリーは「ローラ姫の救出」と「りゅうおうの討伐」の2つから成っていますが、ローラ姫の救出は絶対ではありません。ローラ姫を助けるとおうじょのあいが貰え、それによってロトのしるしを探すのが楽になるというだけで、しるしが落ちている場所がわかっていれば(もしくはしらみつぶしに地面を調べれば)、ローラ姫を救出せずともストーリーを進めることができます。

 このように、話の順序を入れ替えたり、省いたりできるようにフラグを調整することで、「あそこでああしていたらどうなっただろう」とか、「次はこの手順でやってみよう」というふうに思い、私たちは再びコントローラを手に取るのです。

 話の進行に付随して、取返しのつかない選択というのも、プレイヤーに周回を促す強力な要素です。例えばⅤの結婚では、当然ながら妻を選び直したり、3人とも選んだり(ここでいう3人の3人目とは、ルドマンではなくデボラ)はできません。「1回目はビアンカを選んだから、2回目はフローラを選んでみよう」という流れになるのは妥当です。こういったギミックは、自分の選択や決定がストーリー進行に及ぼせる影響の範囲を広くするということであり、要はストーリーの自由度を高めるということですね。

 やや話が脇に逸れますが、昔のゲーム製作は容量との戦いでした。容量の制限という課題に対してクリエイターたちは様々な工夫を凝らしましたが、このストーリーの自由度も、容量不足に対する答えの1つだったのだと思います。スタートとゴールは決まっていますが、その過程を何通りも用意することで、嫌ないいかたをすればボリュームがあるように見せていたわけです。
 歴代ナンバリング作品の中でストーリーの自由度が高いものは、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲでしょう。すべて原作がFCで、特に容量が少ない初代のハードです。Ⅰについては先ほど説明したとおりですし、ⅡとⅢは船を入手した後の自由度がとても高いです。船入手直後から紋章やオーブを集め始めることになりますが、集める順番は決まっていません。Ⅲはオモテの世界が現実世界にそっくりですから、船入手後すぐに日本を目指し、やまたのおろちに全滅させられた人は多いのではないでしょうか。
 なお、ⅣもFCが原作ですが、これは各キャラクターのオムニバスと、5章で仲間たちと合流していく過程が1本道のため、自由度は低めです。船入手後にいきなりリバーサイドへ行ってドラゴンキラーを買い、直後の戦闘でキングレオやバルザックを圧倒するようなこともできますけれど。

 つまり、容量が増えてボリュームを増やせるようになると、製作者は書きたいストーリーをたくさん盛り込めるようになり、その分道筋が長くなるとともに、道の本数は少なくできます。Ⅴ、Ⅶ、Ⅷあたりがその典型です。
 Ⅴは主人公の人生を描いていますが、奴隷に落とされたり、結婚したり、石像にされたりと、人生の重要な節目というのは動かしようがありません。
 Ⅶは石板を完成させて封印された土地に赴き問題を解決するというのがテーマですが、どの土地から解放していくかという順番はほぼ決まっています。例外として、プロビナ、マーディラス、ルーメン地方を攻略する順番は自由に選べますよね。それまでの3人パーティにメルビンが加わり、さらにマリベルが脱退してアイラが加入する前のこのあたりは、Ⅶを遊んでいて最も楽しい時期の1つだったと思います。
 Ⅷも1本道です。七賢者の末裔が1人ずつドルマゲスの犠牲になる順番は変えられませんし、ドルマゲス撃破後の道筋もほぼ1本道です。

 このように、これらの作品において、ストーリー進行の幅は小さいです。その代わり、キャラクターの育成に幅を持たせる方向性で対処しているように思われます。
 Ⅲの仲間選択及びダーマ神殿の導入を皮切りに、Ⅵ、Ⅶでは職業の選択、Ⅴでは仲間モンスターの選択、Ⅷではスキルの選択で、それぞれ変化を出しています。
 Ⅳにこれらの要素はありませんが、導かれし者たちの誰をレギュラーにするかという点で変化が出るよう仕向けているように思われます。馬車を連れて行かない洞窟や塔では控えのメンバーに経験値が入らないため(王家の墓F1は入る。)、メンバーの強さに差が出がちです。例えばクリフトとミネアや、マーニャとブライというのは、どちらかしか育っていないという状況になりがちです。私は初めてプレイしたとき、ずっと主人公、ライアン、クリフト、マーニャの4人がレギュラーで、他のメンバーはほぼ使っていませんでした。アリーナ×キラーピアスの恐ろしさやブライのバイキルト・ルカニの便利さに気づいたのは2周目以降だったと記憶しています。

 最後に、これは蛇足になるかもしれませんが、物語に深みをもたせるというか、難解なストーリーを用意することで周回プレイを促すというやり方もあります(これは意図したものではないと思われますが)。
 例えば、私が最も周回した作品はⅥですが、Ⅵのお話の難しさはシリーズ屈指です。ⅤやⅧって、途中でこそ謎がありますが、その謎は作中ですべて明らかになります。幼少期にレヌール城で拾った黄金の宝玉はなんだったのかとか、主人公が呪いを一切受けないのはなぜなのかとか、そういったことは初回のプレイですべて解消されますし、すべてが語りつくされて、独自の解釈を挟む余地もありません。
 しかし、Ⅵの話はよくわかりません。そもそも現実と夢の2つの世界を行き来するため複雑ですし、何より、ストーリーの背景に関する説明が明らかに不足していて、受け手は自らの解釈をもって物語を補完しなければなりません。そういうわけで、「あれってどういうことだったんだろう?」という疑問がクリア後も頭の中に残り続け、また最初から始めてしまうのですね。

 ちなみにⅥの物語は、ある作家の方が緻密な情報収集と天才的な洞察により、妥当性と説得力のあるストーリー補完を見事にやってのけています。これにより、Ⅵの物語には納得感のある解釈が生まれ、(その作家の言葉を借りるならば)「済」のハンコが押されることになりました。と同時に、とても贅沢な損失ではありますが、また遊んでみようという気持ちは薄れてしまいました。この方の考察の特筆すべき点は、納得感が高いことに加えて、とてもロマンチックだということです。そもそも堀井さんの描く物語がロマンチックですから、考察もそうでなければ読者の賛同は得られないのでしょうが、ロマンチックだということによる堀井さんらしさが、妥当性を担保しているのだと思います。


 さて、長々と述べましたが、こうした要素はXにあるでしょうか。あればオフライン版を買って、もう一度1から遊んでみようという気になるでしょうし、なければオンライン版をそのまま遊び続ける方が楽しめるでしょう。
 この点について考えていきますが、字数が多くなってきたので一度ここで切ります。

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